第1章 今、なぜ「フードテック」なのか
フードテックの将来性
序章でもあげた「スマートキッチンサミット2017」において、世界のフードテックの市場規模は、2025年までに700兆円規模に達するであろうとの予測が出されたようです。これは、2019年の日本のGDP(国内総生産)約554兆円よりもはるかに上回る額です。
また、この本の著者の所属しているシグマクシス(引用元: https://www.sigmaxyz.com)が、2019年11月に日本・アメリカ・イタリアで実施した生活者意識調査によると、
現代の食に対して追加でお金を払ってでも解決したい不満を抱えている層は、日本、イタリア、米国で20~30%程度いる (本文 p019)
とあります。
また、次のようなアプローチでフードテックの将来性を考えることもできそうです。現在、地球上の人類が、一年間に食事する回数は約8兆回(78億人×3回×365日)と試算することができます。仮に、その食事の中の一割でいいので、追加で100円を支払うということになれば、80兆円規模の市場がいきなり生まれることになります。
現に、フードテック関連事業への投資は
19年の総投資額は150億ドル(約1兆6050億円)に達し、14年のおよそ5倍に迫る勢い (本文p020)
だそうです。本書では、投資が活発な領域に関して、具体的に社名を上げて記載していますので、事業的・投資的にも大変勉強になりました。
一方で、フードテックの盛り上がりは、市場規模の拡大だけが原因ではないようです。「食」に関する現在のシステム自体にも、無理が生じているようです。
世界のフードシステムの年間市場価値は、10兆ドル(約1077兆円)。それに対して、フードシステム自体が引き起こしている健康や環境、経済へのマイナスの影響が12兆ドル(約1292兆円)と、生み出す付加価値を大きく上回る (本文 p025)
ここで言う「経済へのマイナスの影響」には、どのようなコストがあるのか、次に見てみましょう。肥満による健康被害(約291兆円)。低栄養でもたらされる健康被害(約194兆円)。農薬などのよる健康被害(約226兆円)。気候変動のコスト(約333兆円)。経済にかかわるコスト(約226兆円)。しかもこのうち、経済にかかわるコストの主たるものが「フードロス問題」であり、全食品の実に33%が廃棄されているという、食に携わっている私にとって悲しむべき現実があります。また、それ以外のどれも、けた違いに膨大な金額であり、わが身を顧みると当てはまってしまうコストが多いような気がします。
未来の市場性への明るい展望と、現在の市場からの切なる要請。この二つがフードテックの将来性の鍵とも言えます。
食の価値の再定義
今まで、「食」に関する市場で重要視されていたのは、「効率性」、「おいしさ」、そして「利便性」である、と本書では分析しています。
「栄養価が高く健康でおいしい」コンセプトの商品を開発し、その商品を「より多く、より早く、より安価に」世界中に届けるための流通網を整備し、消費者の「調理の時間を短縮したい」、「いつでもどこでも購入したい」というニーズに応えるように新たな技術や販売方式が生まれる。この三つの循環により、これまでの食市場は発展を続けてきました。
しかし、生活者にモノが行き渡ると、消費者は真に必要とするライフスタイルのため、すなわち「よりよく生きる(ウェルビーイング)」ために「食」を追求するようになると考えられています。確かに、今では「ヴィーガン」や「ベジタリアン」など、何を食べるのかによって自分の価値観を示す人も出てきていますし、個々人の健康状態やアレルギーの有無によって食べるものを選ぶことは、ごく当たり前のことになっています。「オーガニック」や「地産地消」など環境に配慮した「食」を選択する消費者も多くなってきています。
シグマクシスが行った前述の、日本・アメリカ・イタリアで実施した生活者意識調査によると、食に求める価値(大切だと思う要素)には、「リラックス」、「健康」、「楽しさ」という各国共通で多くの人が選択したものがある一方で、日本では5%程度である「新しいことを学びたい」、「周りとつながりたい」、「環境に貢献したい」ということに重きを置いているアメリカ人やイタリア人は20%程度にも及ぶ。これは、国民性の違いというよりは、まだまだ隠れたニーズを日本は取りこぼしている、ということだと思います。
多様性を認め合う現代社会においては、どのような「食」に、自分自身が価値を置くかということに関しても、個々人で考え方がバラバラなように感じます。そして、その一人一人の多種多様な望みをかなえるために、テクノロジーの進化を利用することが「フードテック」の本質なのでしょう。
次章では、フードテックというトレンドの全体像をまとめてみようと思います。



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